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2021年11月のブログ一覧

2021年11月03日 10時00分

「痛い」のは悪いことなのか

「肩こりは日本人特有の症状だからアメリカ人にはない」
昭和のころにはこんな話がまことしやかに語られていた。しかし英語にも stiff neck や stiff shoulders という肩こりを指す言葉は存在する。またそれらのこりをほぐすマッサージも人気があるようだ。


 英語ではこりの場所である首は単数形の neckで、肩は当然複数形の shoulders だが、膵臓がんなどの特定の疾患になると、なぜか左肩だけにこりが現れることが知られている。もちろん「アシンメトリ現象」は左半身だけ感覚が鈍くなるのが特徴なので、両肩をマッサージしてもらっても、左右同じ力でもまれているはずなのに、左肩は押されている感じが弱い。


 通常のマッサージなどでは、押されて痛いところが悪いと考える。だから痛い部分を重点的にもんでほぐそうとする。しかし「アシンメトリ現象」の場合は、本来感じるはずの痛みが消えている状態を異常だととらえる。従ってこの異常を解消するためには、まずは鈍くなった知覚を痛みを感じる状態にまで戻す。それからその痛みを取り去るのである。


 「アシンメトリ現象」の解消を担うモルフォセラピーでは、背骨のズレの矯正が手技の主体である。以前はズレの矯正のほかに、神経刺激という特殊な手技を用いて知覚の異常を取り去っていた。がんなどの患者は左半身の知覚が非常に鈍くなっているので、ある特定の神経をピンポイントで狙って刺激を加えることで本来の知覚を呼び覚ます必要があったのだ。


 この手技が奏功すると、今までいくら強く押しても「押されているのかな」という程度だった感覚が突然変化し、軽く触れただけでも飛び上がるような痛みを感じるようになる。この段階になって初めて、その痛みを取り去る作業に移ることができる。しかもがんのように、この工程を経なければ治らない疾患は意外に多いのだ。ところが医学上は、このような知覚の異常の変化については全く知られていない。


 がんの治療では、抗がん剤や放射線を使うと患者が激痛を訴えるようになることがある。この痛みは「アシンメトリ現象」の鎮痛作用が解除された結果であるから、がん治療の第一関門をクリアしたことになる。しかし現場の医師たちにはその認識がない。痛いのは悪いことだとしか考えないので、モルヒネなどを使って痛みを抑え込もうとする。だがそういった疼痛治療で感覚が鈍くなって痛みを感じなくなれば、また元の木阿弥なのだ。


 痛みとは体の内部から発せられる警報のようなものである。火災が発生したら、装置が作動して警報が鳴ってくれなくては困る。しかしせっかく警報が鳴り響いているのに、装置を解除しただけでは家は燃え続け、しまいには焼失してしまう。要するに痛みだけ止めて、それで症状が治ったと思うのは大きなまちがいなのである。健康を考えるうえでこの認識はとても重要だ。


 がんの痛みだと診断されている症状も、実際には背骨のズレによる発痛作用の結果であることは多い。鎮痛剤などで痛みだけ止めても、根本原因であるズレを戻さなければ、その影響は残る。痛みの原因がズレであれば、そのズレを矯正すれば痛みは消える。この点でもモルフォセラピーは有用だろう。


 現在のモルフォセラピーでは、神経刺激の手技は背骨のズレの矯正のなかに集約されている。こまめに背骨のズレさえ戻しておけば、「アシンメトリ現象」が引き起こす多くの疾患の予防になるからだ。しかしすでに重症化した疾患に対する神経刺激の即効性も捨てがたい。神経刺激は手技の難易度が高いので修得に時間がかかるのが残念だが、興味のある方にはぜひともチャレンジしてみていただきたい。そして皆でさらに手技を進化させることで、がんなどに対する画期的な治療法が確立すると私は信じている。(花山 水清)


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