2022年03月のブログ一覧
頭痛のタネと片頭痛
悩みごとの原因を体の痛みになぞらえて「頭痛のタネ」と表現することがある。この場合は実際に頭が痛くなるわけではない。しかし頭痛そのものが「頭痛のタネ」だという人は少なからずいる。
一口に頭痛といっても、その原因はくも膜下出血のような重大疾患から、睡眠不足や二日酔いに至るまでさまざまだ。頭痛のなかでも最も一般的なのが片頭痛だろう。片頭痛はその字の通り、頭の左右どちらか片方にズキンズキンと血管が拍動する痛みが生じる。
医学的には頭部の血管が拡張することで片頭痛になると考えられているが、その大本の原因が解明されているわけではない。そのため痛みの根本にアプローチするような治療法も確立されていないのである。
ところが最近、片頭痛の原因に作用するといわれる3種類の新薬が発売された。これらは血管拡張性神経ペプチド(CGRP)の受容体に作用することで片頭痛に効果があるという。私はこの薬の記事を読んで、20年ほど前に発売されたイミグランのことを思い出した。イミグラン(スマトリプタン)はセロトニンの受容体に作用して片頭痛に効果を発揮する画期的な薬だと大々的に報じられていたのだ。
イミグランと今回の新薬とは作用する受容体がちがうだけで、両者とも血管拡張を抑える働きをする点は同じである。ただイミグランとちがって、新薬では今のところ大きな副作用は報告されていないようだ。これで片頭痛から開放されるのなら朗報なのだが、まだこれだけで「頭痛のタネ」が消えるわけではない。そこで今回はモルフォセラピーとして片頭痛を考察してみたい。
ご存じのように片頭痛はモルフォセラピーの矯正の対象である。もちろん片頭痛の原因となっている頭蓋や頚椎のズレの方向が、胸椎や腰椎と同様に左一側性であることに変わりはない。また、ズレによる症状が左右のどちらにでも出る点も同じである。しかし片頭痛の症状が右に出るか左に出るかによって、その矯正法ははっきりとちがうものになる。
たとえば頭の右側に痛みがあるとき、頭を斜め左に倒して第1頚椎と第2頚椎の棘突起の右側にしこりがあるのが指先に当たるなら、これは頭蓋と第1頚椎がズレているのである。この場合、頭を右に倒してみても左側にはしこりがない。それが確認できたら通常通りに矯正する。ズレ幅が小さいようなら、しこりに指先で圧をかけ続けるだけでも症状が消えるはずだ。
片頭痛に限らず、ほとんどの頭痛は主に頭蓋や頚椎1番、頚椎2番あたりのズレに起因している。そのズレによって椎骨動脈や頚動脈に機械的な力が加わると、頭部に動脈炎のような症状が現れる。これは体のどこかを打ち付けたとき、ズキンズキンと拍動する痛みが出るしくみにも似ている。
ところが頭蓋や頚椎のズレは血管だけでなく交感神経をも刺激するので、興奮した交感神経の作用によって血管は収縮する。従ってズレを矯正すると、交感神経の作用が収まって血管が拡張することになる。これは医学的な説明とは正反対の結果なのである。
先述したように、医学的には片頭痛の原因は血管拡張だとされている。だからこそ薬によって血管を収縮させれば症状が抑えられると考えるのだ。しかしズレという現象を基準にするなら、やはり私には血管拡張が片頭痛の原因だとは考えられないのである。
血管拡張と聞くと、私たちはホースが膨らむように均等に血管が広がっている姿をイメージする。しかしそのように血管が拡張しただけで片頭痛が起こるものなら、だれもが毎日片頭痛を体験していなければならない。しかも単なる血管の拡張が原因ならば、なぜ痛みが左右の片側だけに出るのかの説明もつかない。片頭痛のしくみはそれほど単純ではないはずだ。
では片頭痛発生時の血管には、どのような変化が起きているのだろうか。
片頭痛と似た症状に三叉神経痛がある。三叉神経痛も片頭痛と同じく頭蓋や頚椎のズレによって引き起こされている。これらのズレを矯正することで症状が消える点からみても、症状と原因との因果関係は明白だ。そしてこの三叉神経の興奮が、強力な血管拡張作用をもつCGRPの放出の引き金であることも知られているのである。
これらのことから何がわかるだろう。
まず頭蓋や頚椎のズレによって交感神経が刺激されると血管が収縮する。しかしその際、ズレは三叉神経をも刺激してしまうため、CGRPの放出によって血管が拡張する。拡張した血管は、頭蓋や頚椎のズレの部分で圧力が増すことになる。これが痛みを引き起こしているのである。
このようなストーリーによって片頭痛が起きると考えれば、血管の拡張、収縮と片頭痛の有無のつじつまが合う。片頭痛の症状が左右の片側だけに現れる理由も、そこにズレが介在しているからなのだ。
しかし「頭痛のタネ」は他にもまだ残っている。仮に新薬が効果を発揮したとしても、それは一時的な症状の緩和に過ぎない。頭痛の原因となっている頭蓋や頚椎のズレが解消されなければ、患者は薬に依存し続けることになってしまう。その頭痛薬への依存が新たな頭痛を生んでいることも、医学的には周知された事実なのである。
それだけではない。頭蓋や頚椎のズレによる血管への刺激が続くことは動脈硬化の原因にもなり得る。そのような状態で頭痛薬によって血管を収縮させ続けていると、いずれは脳血管障害を発症する危険性まであるのだ。
従ってモルフォセラピーにおいても、片頭痛や慢性頭痛の患者への施術には特に注意したい。ズレの矯正によって急激な血管拡張が起これば、一過性の脳虚血発作を引き起こす可能性もゼロではないからだ。
少なくとも初めての患者に対して「一発で決めてやろう」などと意気込むことは控えたい。モルフォセラピーの効果を確信しているからこそ「安全第一」を旨とし、はやる功名心を抑え込む謙虚さを忘れないでおきたいものである。(花山 水清)
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