三叉神経痛と背骨のズレ
日本モルフォセラピー協会では、毎月の会員フォローアップ練習会のほかに、私も交えて指導陣での研究会も隔月で開催している。研究会で報告される症例には、難病や特殊な疾患も多く含まれており、今後はそれらの症例を資料として記録し、ネット上でも公開していく予定である。
昨年11月の研究会でも、貴重な話を数多く聞くことができた。そのなかに、モルフォセラピー医学研究所の医師から、三叉神経痛に関するたいへん興味深い報告があったので、ここでも紹介しておきたい。
三叉神経痛とは、三叉神経の走行に沿って、顔面に激しい痛みが走る神経痛である。原因としては脳腫瘍や脳動脈瘤などの重大疾患から、顔面の外傷によって誘発されるものまでさまざまだ。しかしその多くははっきりとした理由もなく発症するので、病院では確かな治療法もない。そのため、ほとんどがその場しのぎの薬物療法で処理される。
そういえば私も、若いころに三叉神経痛を体験したことがある。私の場合も何のきっかけもなかった。家でゆっくりしているときに、突然、左の顔面に激痛が走ったのである。あまりの痛みに叫びそうになったが、しばらく耐えているとスッと痛みが消えた。これで治ったのかと安心していると、2~3時間してまた痛みがぶり返すのだ。
当時はそれが何の痛みかもわからなかったが、ずっと連続して痛むわけでもないので病院には行かなかった。例えるなら、虫歯の激痛が左の顔面全体に現れたような感覚だったが、あれが連続した痛みだったら耐えられるものではない。
自慢にもならないが、私は痛みに弱いほうではないと思う。以前、歯科治療のときに、どれだけ痛いものか興味が湧いた私は、高校の同級生だった歯科医のS君に頼んで、麻酔なしで歯を削ってもらったことがある。その際、彼は「こりゃ拷問だな」とつぶやいていた。
だが、あの三叉神経痛のときの痛みはその比ではなかったのである。ところがそれだけの痛みであっても、いつしか自然に消えてしまった。今思えば、あれは頸椎がしっかりとズレていたのだろう。
大きな理由もなくいきなり三叉神経痛が現れたとき、頭蓋や第一頸椎、第二頸椎が大きくズレていることが多い。それがどんなに激しい痛みであっても、原因がズレによるものなら、そのズレさえ矯正すれば、その場で痛みが引いていく。
仮に三叉神経痛だと病院で診断されていなくても、
・虫歯でもないのに歯や歯茎が痛い
・副鼻腔炎と似た症状が出る
・片頭痛が治らない
・耳が痛い
こういった症状の多くは、頸椎などのズレによる三叉神経痛の症状だと考えてよいだろう。
ところが今回モルセラ医研から報告があった三叉神経痛の場合は、様相が異なっていた。患者は少し前に受けた脳腫瘍の手術の後に、三叉神経痛を発症したのだという。つまり手術の後遺症なのである。
手術の後遺症となれば、手術による三叉神経の損傷が原因だろう。そうなると手術した病院としても治しようがない。かといって手術による外科的な損傷に対して、頸椎のズレを矯正しても傷が治るはずもない。まして患者は脳腫瘍の手術後であるから、何が起きてもおかしくはない。
相談を受けたモルセラ医研の医師も、リスクを考慮して、当初は施術の依頼を断るつもりだった。しかしあまりに激しい痛みが続いていた患者から、「診るだけでも」と懇願されて仕方なくお受けしたらしい。
面談の日、おそるおそるその方の頸椎を調べてみると、明らかにズレていた。
そこで軽く矯正を試みたところ、たちまち顔面から痛みが引いてしまったのである。この予想外の結果には、患者だけでなく医師も喜んだ。要するに、病院で手術の後遺症だと診断されていた痛みは、頸椎のズレによる症状だったのだ。
実はこういう例はモルフォセラピーの周辺では珍しくない。たとえば乳がんの手術の後に、肋間に痛みが出ることがある。患者としては「すわ、がんの再発か!」と不安に襲われる。だがこの痛みも単なる胸椎のズレによる症状なので、ズレを矯正すれば痛みが消えてしまうことが多い。
また胆石の手術後に、取ってしまったはずの胆のう周辺に、しばしば胆石のときと同じ痛みが再現することがある。これまた胸椎のズレによる症状なのだが、病院では精神的なものだから気にするな、と説得される。手術による後遺症だと認められるのはまだましで、多くの場合は大して問題にもされないのである。
ところがここで問題視されるべきは、その痛みが手術の後遺症かどうかではない。痛みの原因となっている背骨のズレは、手術によって誘発されたものなのか。それとも手術する前から背骨がズレていたのか。それが問題なのだ。
手術によってズレたのであれば、背骨は手術の刺激でズレやすくなる性質があると考えられる。だがその一方で、手術には関係なくもともと背骨がズレていたのなら、その背骨のズレがそもそもの疾患の原因になっていた可能性が出てくる。
すると今回の症例の場合、脳腫瘍の手術後の三叉神経痛だけでなく、脳腫瘍そのものの発症にも、ズレが関与していたのではないかと考えられるのだ。そのしくみは、上述の乳がんや胆石の例でも同様である。
もちろんこれらは仮説の段階だが、今後モルフォセラピーの症例が蓄積されていくことで、おのずと因果関係が証明されるだろう。そうやって各疾患に対する施術マニュアルが確立されれば、さらに多くの人にモルフォセラピーが還元できる。そんな将来に私は期待しているのである。(花山水清)
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