新刊『モナ・リザの左目』発売にあたり

モナ・リザの左目

2022年08月03日 10時00分

新刊『モナ・リザの左目』発売にあたり

先月末、私の25年にわたる「アシンメトリ現象」探究の集大成として『モナ・リザの左目』が出版された。この本は構想に5年以上を費やし、何度も書き直し続けてついには69稿にまでなった。だがこれだけ完成度を上げたのに、本として出してくれる出版社がなかなか決まらず、足踏み状態が続いていた。


確かに、この20年で書店の数が半減したという話まで耳にするほど、出版業界は不況の真っただ中である。まして今回の本は医学界や美術界のタブーだけでなく、環境問題にまで踏み込んだ内容だ。出版社が二の足を踏むのも理解できないわけではない。私としては渾身の力をこめて仕上げた原稿だが、このまま日の目を見ることなくお蔵入りとなるのか。そんなあきらめとともに、厭世的な思いが朝に夕に私を襲うようになっていた。


ところがある日、私のところに取材に来ていた新聞社の記者の方に、たまたまこの原稿の話をしたら、「出してくれそうな出版社を探してみる」と請け合ってくださったのである。これはありがたい。長いトンネルの向こうに、一筋の光がさしたようだった。そこで即座にその新聞社あてに企画書と原稿を送り、「期待してはいけない」と自分にいい聞かせながらも、楽しみに返事を待っていた。


それからまた数か月が過ぎたころ、その記者さんから「藤原書店の社長に会いに行きましょう」と連絡が来た。藤原書店といえば、現社長の藤原良雄氏が一代で築き上げた、硬派で知られた出版社である。私の手元にあるのも、水俣病を扱った社会派の作品だ。


藤原書店では、たとえ人気作家だろうと、ただ売れているだけでは出版にはならない。原稿を採用する際に、その内容に明確な社会的意義が求められているようだった。それなら「アシンメトリ現象」の意味を伝えれば、理解していただけるかもしれない。もう後がないと感じ始めていた私は、この面談に賭けた。


面談の日、前夜から緊張していた私は、初対面のあいさつもそこそこに、「アシンメトリ現象」の存在が社会に認知される重要性と、そのために私がこれまでやってきたことを一気に訴えた。話し始めてどれぐらいの時間が過ぎただろうか。ふと、われに返って言葉を切った。もう伝えるべきことはいい尽くしたのではないか。そう考えていると、それまで私の話にじっと聞き入ってくれていた藤原社長が大きくうなずいて、「うちで出しましょう!」と力強くいってくださった。


その言葉を聞いて、これまでの25年が頭のなかを駆け巡る。「アシンメトリ現象」の発見は、私に託された神からの預言だとまで思い詰めていた私も、これでようやく肩の荷が降ろせる。この安堵と喜びの気持ちは言葉にならない。


当たり前のことだが、出版というのはただ本が出ればいいというものではない。どこの出版社から出るかで、その本の信頼度は全くちがったものになる。それが「あの」藤原書店から出るとなれば、「アシンメトリ現象」の信憑性も大いに高まる。これがうれしくないはずがない。


今までの私の本3冊は健康本だけだった。健康本を出したいと願ってきたわけではないが、結果としてこうなった。本屋に行くと、小説・ノンフィクション・医学・学術など各ジャンルでコーナーが分かれている。そのうち健康本は医学の専門家以外の、ごく一般の人がターゲットである。そうなると、必然的に文字を減らして読む部分を少なくし、写真やイラストを多くする必要がある。パッと見で素人受けするような構成になっていないと売れないのだ。


その結果、健康本のコーナーに置かれれば、文字の多い本など見向きもされない。いくら「アシンメトリ現象」の重要性を伝えようとしても、周りのハデハデしい本のなかに埋没して、存在感が薄くなってしまう。しょせん健康本のジャンルでは、私の伝えたいことと読者のニーズとの温度差は埋められない。


そこで今回は戦術を変更した。健康本ではなく一般書として、より広い読者層に向けて出すことにしたのである。すると文字数も多くできるし、本格的な読書家にも納得してもらえるはずだ。何よりも日ごろ私自身が、こんな本に出会いたいと願ってきた内容に仕上げられた。


そもそも私は美術が専門である。美術家である私にとって、健康業界に身を置くことは全くのアウェイでの闘いだったのだ。しかし『モナ・リザの左目』は美術を基軸としたおかげで、やっとホームグラウンドに戻れたわけである。その上で、読み物としてのおもしろさに力点を置いたので、新しい読者の反応が楽しみだ。


「アシンメトリ現象」の解消を目指すモルフォセラピーに明確なセオリーがあるように、出版業界にも売れる本のセオリーがあるという。まずはだれもが知っている話だけで展開し、そこにほんのわずかに新鮮みをもたせたネタを添える。それだけで読者は大いに満足するものらしい。


「オリジナルの話はウケない」と、大ベストセラー作家である養老孟司さんが書いているのだから、その通りなのだろう。ところが私が書いた話は、すべてがオリジナルである。したがって、だれもが聞いたこともない話ばかりなので、セオリーからは大きく逸脱している。果たして読者はついてきてくれるだろうか。いささか心もとない気もする。


だが私には、真実はいつか必ず伝わるという信念がある。現に、以前この原稿を読んだある出版社の編集長も、内容には太鼓判を押してくれた。うちではカテゴリーが合わないから出せないが、これなら必ず出してくれるところがある、賞が狙えるとまでいって励ましてくれたのだ。


しかもノンフィクションとしての読みごたえを求める読者層に向けて、さらに内容を深め、ページ数も増やしたほうが良いといってくださった。そのアドバイスにしたがって、大幅に書き直したおかげで厚みも倍になり、自分としても書きたいことを過不足なく書き尽くせた。


今の出版業界では、本の寿命が短い。次々に新しい本を出し、売れなければ即座に断裁して絶版にしてしまう。そのため本が市場にとどまる期間はどんどん短くなっている。2014年に出した『からだの異常はなぜ左に現れるのか』が、現在も売れ続けているのはかなり珍しいことだ。しかし健康本である以上、対象となる読者層が薄い。だから今回初めて一般向けに書いた『モナ・リザの左目』は、「アシンメトリ現象」が世界に認知されるその日まで、何としても市場にとどまり続けてくれなくてはならないのだ。


その点、今回お世話になった藤原書店では、めったなことでは絶版にはしない。自社の本を長く売り続けるのがモットーであるらしい。私もロングセラーを意識して、『モナ・リザの左目』が何年経っても古びないように内容を厳選した。しかもいつ「アシンメトリ現象」が脚光を浴びても遜色ない仕掛けも施してある。


本書には、これまでメールマガジンやブログで取り上げてきたキーワードがちりばめられている。そのため、昔からの読者のなかには既視感を覚える部分もあるかもしれない。しかし1冊の本としてまとめることで、初めて「アシンメトリ現象」の全体像を俯瞰できるようになった。おかげで、この現象がいかに広範にわたって人類に影響を及ぼしてきたか、その重要性を改めて認識していただけると思う。


さらにモルフォセラピーの実践者にとっては、「アシンメトリ現象」への理解がモルフォセラピーの理論の背骨となるはずなので、この機会にぜひ本書をご一読いただきたい。そして末永く手元に置き、折に触れて読み返していただけることを心から願っている。(花山 水清)


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◆『モナ・リザの左目』花山水清(藤原書店)


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